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誇張せずシンプルに技術と熱意を表現する

クライアント:Chill hair

CD/語り手:澤井裕吾

STORY

髪を切らずに啖呵を切られた

美容室が大嫌いだった。中学生になりたての頃、背伸びして近所の美容室に行ったのだが、綺麗なお姉さんと磨き上げられた鏡を前にそれはもう緊張し過ぎて、背中にびっしょり汗をかいたのだ。少年の心の傷は大人になっても消えることはなく、髪が伸びたら自分で適当に散切りするというのを、かれこれ20年以上続けてきた。そのトラウマを綺麗に消し去り、ずぼらな僕の生活に「年2回の散髪」を定着させたのが、chill hairのオーナー行本さんだった。その行本さんから「店舗拡張して勝負に出る」と、髪ではなく啖呵を切られたもんだから、ぼさぼさの頭を振りながらお店に行くことにした。

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あなたの人生を変える自信がある

 出迎えてくれたのは、いつもやわらかな笑顔が素敵な真田さん。そつなくモテそうである。こちらが恐縮してしまうほど丁寧な物腰の彼は、移転後に店長を任されることになっていた。奥から顔を覗かせた行本さんは、華奢な体ながらサーフィンで焼けた肌にタトゥーが鈍く光る、金髪のイカつい男である。普段なら絶対に友達にならない。怖いから。でも知っているのだ。すべてにおいてストイックで、仕事に熱く、義理堅く、お客様想いで、たまに朝食にうどんを食べることを。ギャップ萌えってやつだ。
 そんな二人から、移転の意図や将来のビジョンをあらためて聞かせてもらう。「店舗に華美な装飾は施さない」「美容師に本当に必要なのは技術」「強いところも弱いところもさらけ出して、人としてお客様に向き合う」。極めつけは「ヘアデザインでお客様の人生を変える自信がある」と言い切る姿勢。出会った頃からまったくブレない姿勢に感動しつつ、やっぱりデザインも無駄のないシンプルなものがいいなと考えていた。

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シンプルかつユニークに

 まず取りかかったのはロゴの微調整。店舗開業時から使われていたタイポグラフィの文字間隔などアンバランスな部分を整える。髪型と同様、ロゴデザインも細部に魂が宿るのである。きっと。
 そこから派生して、看板、ショッパーバッグ、オリジナル商品のパッケージラベル、名刺、告知DMなどデザインを展開していった。共通しているのは、シンプルでありながらもスタンスが伝わる要素を盛り込むこと。業界最大手の集客サイトやフリーペーパーは使わない。無駄なディスカウントの連発もしない。「本当にchill hairを必要としている人が共感し、一度行ってみようと思えるもの」を合い言葉に、カットモデルをメインにした広告写真は一切使用せず、メニューや料金の押し売りをせず、伝えたい気持ちをシンプルに伝えるべく制作を進めていった。

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美容室の当たり前を変えていく

 たいていの美容室のWebサイトは、やれコンセプトだカット事例だと飾られた主張のオンパレードである。でもそれじゃあchill hairっぽくないし、むしろ野暮ったい。そこで、ページを訪れた人にまず「chill hairの姿勢や考え方を細かく伝え続け理解してもらうこと」を主目的に、SEO対策もかねてブログ記事をメインにしたWebサイトをつくることにした。日々の出来事を綴るfacebookと、カット技術をリアルに見せるInstagramを連動させながら、姿勢と技術を色眼鏡なしに見てもらう算段である。
 小綺麗すぎて気後れしないだろうか。美容師さんのオシャレトークについていけるだろうか。そんな人にこそ、ぜひブログを読んで欲しい。美容室恐怖症の人でも安心して行けるサロンである。僕が保証する。

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芯ある場所に人は集う

 オーナーの行本さんは、さらなる事業展開に貪欲にチャレンジ中。店長の真田さんはクセ毛特化美容師として脚光を浴び、となりの人間国宝さんに認定された。移転前からの仲間である浦地さんは、ヘアメイク技術との二刀流でお客様を笑顔にしている。そんなむさ苦しい男達に華のある中馬さんが加わり、chill hairは日々進化を続けている。
 背中に汗をかかないようにお店には冬でも半袖のTシャツで行く。それくらい配慮ができる大人に僕だって進化したのだ。案内されて、よっこらと椅子に腰掛ける。鏡の中には緊張に震える少年の姿はなく、だらしなくも少し誇らしいおっさんの顔が写っていた。

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voice

  • ユーザー視点で考えるなら、美容室を選ぶこと=自分のヘアスタイルを任せる人を選ぶこと。デザインや見た目だけではなく、スタイリストの人となりが伝わることが大切だと思いますね。

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